過去の課題を見る意味

美大の実技課題は、毎年同じものが出るわけではありません。それでも、過去の課題を見ておくことには大きな意味があります。

過去の課題からわかるのは、「何が出るか」ではなく、「その大学・学科がどんな力を見ようとしているか」です。目の前のものを正確に描く力なのか、与えられた言葉から画面を組み立てる力なのか、色や形を構成する力なのか。それがわかれば、日々の練習で何を優先すべきかが見えてきます。

東京藝術大学は、入試情報サイトで学科ごとの過去の入試問題と、その出題意図を公開しています。上野キャンパスの美術学部教務係の窓口で閲覧することもできます。私立美大の多くも、公式サイトや入試ガイドで過去の課題や参考作品を公開しているので、志望校が決まったら必ず目を通しておきましょう。

東京藝術大学 絵画科油画専攻

旧版に残していた記録(2012年度)

このサイトの旧版では、2012年度の油画専攻の課題を次のように記録していました。

第1次試験:課題文「校内で、見たものを描きなさい。」
第2次試験:立ちポーズのモデル2人が向かい合わせに立ち、「人を描きなさい」という出題

どちらも、見たものを手がかりにしながら、何をどう描くかは受験生にゆだねる出題でした。

文章を読み解く出題も

一方で、近年は言葉や文章を出発点にする出題もあります。たとえば2021年度の第1次試験では、近代文学の作品の一節が示され、それを読んで素描で表現するという課題が出されました。大学が公開した出題意図では、文章をどう解釈し、それをどんな表現に置き換えるかという独自性と解釈を見ようとしたことが説明されています。

2012年度の「校内で見たもの」と、2021年度の「文章を読んで描く」を並べてみると、同じ専攻の第1次試験でも、出題の形がこれだけ変わることがわかります。油画専攻の課題が予想しにくいと言われるのは、このためです。

評価の観点は公開されている

課題の中身は変わっても、何を評価するかは公開されています。油画専攻の公式サイトでは、第1次試験の素描では出題を「どのように理解したか」「どのように観察したか」「どのように表現できたか」を主に見ると説明しています。

第2次試験は素描と油彩で、構想力と構成力、さらに形と色による総合的な造形表現の力が評価の観点として示されています。課題を予想するよりも、この観点に沿って力をつける方が、どんな出題にも対応しやすくなります。

東京藝術大学 デザイン科

デザイン科の実技は、第1次選抜が「鉛筆写生」、第1次選抜の合格者だけが受ける第2次選抜が「デザインⅠ(色彩)」と「デザインⅡ(形体)」という構成になっています。

油画専攻と比べると、課題の形式がはっきりしていて、モチーフを正確に観察して描く力と、色や形を使って画面や立体を構成する力が、それぞれ別の試験で問われます。デザイン科の過去問には採点基準も載っているので、何ができれば評価されるのかを具体的に確認できます。

なお、デザイン科では大学入学共通テストで国語・外国語・情報の3教科が必修になっています。学科の準備も忘れないようにしましょう。

そのほかの学科

日本画専攻では、第1次試験で鉛筆による素描、第2次試験で着彩写生が出題されるのが基本の形です。彫刻科や工芸科では、デッサンに加えて粘土などによる立体表現が課されます。建築科や芸術学科、先端芸術表現科は、ほかの学科とは試験の構成そのものが違い、小論文や学科試験が大きな比重を占める場合もあります。

どの学科も、試験の形式や使える画材は年度によって変わることがあります。ここに書いた内容は大まかな傾向として読み、必ずその年の募集要項と過去問で確認してください。

私立美大の課題

私立美大の実技は、東京藝大に比べると形式が安定していることが多く、学科ごとに鉛筆デッサン、色彩構成、油彩、立体構成などから決まった組み合わせで出題されるのが一般的です。

また、武蔵野美術大学の一般方式のように、大学独自の国語・外国語の試験と、学科の特色に応じた専門試験を組み合わせる大学もあります。実技の課題だけでなく、学科試験の過去問も合わせて確認しておきましょう。

私立美大を併願する場合、大学ごとに課題の形式が違うので、志望校を増やすほど練習の負担も増えます。課題の形式が近い大学どうしで併願を組むと、準備の効率がよくなります。

過去問の使い方

過去問は、眺めるだけでなく、実際に使ってこそ意味があります。

まず、本番と同じ制限時間で過去の課題を描いてみてください。時間内に仕上げることの難しさや、自分がどこで時間を使いすぎるのかがわかります。

次に、出題意図や採点基準が公開されていれば、描き終えた作品をそれに照らして見直します。予備校に通っていなくても、公開された観点に沿って自分で評価することはできます。

そして、その課題に対する合格者の作品を探して見比べましょう。予備校や大学が公開している合格作品は、どのレベルが求められているかを知る一番の手がかりです。合格作品の生かし方は合格作品から学び、自分の描き方の型をつくるで紹介しています。

最後に、課題の予想に賭けるのはやめておきましょう。とくに油画のように出題の幅が広い専攻では、「今年はこれが出るはず」と一つの課題に絞った練習は、外れたときに何も残りません。