やるべきことは一つ

美大受験でやるべきことを一言でいえば、「試験当日に、合格できる作品を、制限時間内に描けるようにしておくこと」です。

当たり前のようですが、ここを取り違えている受験生は少なくありません。上手い絵を描くことと、試験で合格する作品を描くことは、重なる部分は多くても同じではありません。

合格する人は、試験会場でその場の思いつきだけで描いているわけではありません。どんな課題が出ても、どう画面を組み立て、どんな順番で描き進め、どこで時間を使うかという自分なりの手順を、試験の前に持っています。このページでは、それを「型」と呼びます。

「型」とは何か

ここでいう型は、毎回同じ絵を描くための決まりごとではありません。課題が変わっても使える、自分の描き方の土台のことです。

たとえば、画面の中で主役をどこに置き、どう余白をとるかという構図の癖。明るいところと暗いところの配分。描き出しから仕上げまでの時間の配分。得意なモチーフの描き方や、自分らしい線や色の使い方。こうしたものが組み合わさって、その人の型になります。

型を持っている人は、見たことのない課題が出ても慌てません。課題を自分の型に引き寄せて、「このテーマなら、自分はこう組み立てる」と考えられるからです。過去の入試課題で見たように、油画のように出題の幅が広い専攻ほど、この力が効いてきます。

合格作品を集める

型をゼロから自分の頭だけで考え出すのは大変です。まずは、実際に合格した人たちの作品から学ぶのが近道です。

合格作品は、美術予備校の公式サイトやSNS、予備校が出版している参考作品集、大学や学科が公開している合格作品例などで見ることができます。志望する大学・学科の合格作品を、年度ごとにできるだけ多く集めて保存しておきましょう。

集めた作品は、ただ眺めるのではなく、「好きだと思うもの」「自分にも描けそうなもの」「どう描いたのか見当もつかないもの」に分けておくと、次の段階で使いやすくなります。

分解して、真似してみる

集めた作品の中から、好きで、かつ自分にも手が届きそうなものを選び、実際に真似して描いてみてください。

ただ写すのではなく、分解しながら描くのがポイントです。構図はどうなっているか。一番暗いところと一番明るいところはどこか。どこを描き込み、どこを描き込まずに残しているか。そして、試験の制限時間の中で、どの順番で描けばこの状態に仕上がるのか。そうしたことを考えながら、できれば本番と同じ時間を計って描きます。

真似をしているうちに、描く技術そのものも上がっていきますし、時間内に仕上げる段取りも身につきます。旧版にも書いたことですが、何かを手本にして、そこから少しずつ離れていく方が、いきなり独自の作品を目指すよりもずっと早く合格に近づけます。

組み替えて、自分のものにする

ただし、真似はあくまで出発点です。

一枚の合格作品をそのまま再現できるようになっても、それだけでは合格できません。

採点する側は、毎年たくさんの作品を見ています。予備校で流行った描き方をそのままなぞっただけの作品は、すぐに見抜かれます。東京藝大の油画専攻のように、出題をどう理解し、どう表現したかという独自性を評価の観点に挙げている学科ではなおさらです。

そこで、いくつもの合格作品から「この構図の組み方」「この明暗のつけ方」「この色の使い方」と、気に入った要素を借りてきて、自分の中で組み替えてください。さらに、自分が普段から好きなもの、得意なものを混ぜていきます。そうして組み上がったものが、ほかの誰のものでもない、自分の型になります。

真似もできないときは

合格作品を見ても、どう描けばいいのか見当もつかないという段階の人もいるはずです。それは才能がないということではなく、真似をするための基礎がまだ足りていないというだけです。

その場合は、石膏像や静物のデッサンで、形をとる力と明暗を見る力を先に鍛えましょう。基礎がついてくると、それまで「どう描いたのか見当もつかない」と思っていた作品が、少しずつ分解して見えるようになってきます。

基礎をどこで身につけるかについては、美大予備校に通うべきかも参考にしてください。

型を試して、直す

型ができてきたら、過去の入試課題や、予備校の模擬試験のような想定課題で試してみましょう。

本番と同じ条件で描いてみると、うまく当てはまる課題と、型がまったく通用しない課題があることに気づくはずです。通用しなかった課題こそが、型を直すための材料です。何がうまくいかなかったのかを振り返り、次の練習で修正する。この繰り返しで、型はどんな課題にも耐えられるものに育っていきます。

計画を立て、描き、振り返り、直すという流れの回し方は、受験計画の立て方で紹介しています。

努力の向きを間違えない

最後に、旧版で一番伝えたかったことをもう一度書いておきます。

大事なのは、努力の量だけでなく、努力の向きです。何を描きたいか、どんな作品で合格したいかを決めないまま枚数だけを重ねても、力は思うようには伸びません。

まず合格作品を見て、目指す方向を決める。そこに向かって練習する。試して、直す。美大受験の実技対策は、突き詰めればこれの繰り返しです。