学び方は一つではない

美大受験というと、美術予備校に通うのが当たり前だと思われがちです。

たしかに、特に東京藝大や難関の私立美大を目指す受験生の多くは、予備校で実技を学んでいます。けれど、予備校に通うには決して安くない費用がかかりますし、住んでいる地域によっては通える範囲に予備校がないこともあります。

このページでは、予備校に通う方法と、お金をかけずに学ぶ方法の両方を紹介します。どちらが正解ということはありません。自分の状況に合わせて選び、組み合わせてください。

美術予備校に通う

予備校で得られるもの

予備校に通う一番のメリットは、合格に必要な環境がまとめて手に入ることです。

石膏像や人物モデル、静物のモチーフが用意されていて、入試を想定した課題に取り組めます。講師の多くは美大の卒業生や在学生で、描いた作品に対して評価や改善点を具体的に伝えてくれます。同じ大学を目指す受験生の作品と自分の作品を並べて見る「講評」は、独学ではなかなか得られない経験です。志望校選びや入試の情報、受験の相談ができることも大きな支えになります。

予備校の費用の目安

費用は予備校やコースによって大きく違います。目安として、高卒生が朝から通う昼間部で年間70万円台後半、高校生が放課後に通う夜間部で年間40〜50万円程度が多いといわれています。

これに加えて、春・夏・冬の講習会が別料金でかかることが多く、画材などの消耗品も一年を通して買い足していくことになります。通学の交通費も含めると、一年間の総額は授業料だけを見て想像するよりかなり大きくなります。入学を決める前に、授業料以外にかかるものを必ず確認しておきましょう。

予備校のデメリット

予備校に通えば合格できる、というわけではありません。このサイトの旧版を書いた当時、私が通っていた予備校は「合格したい人を合格できるレベルまで上達させる場所であり、不合格はあなた自身の責任」という考え方をはっきり打ち出していました。予備校は環境を用意してくれる場所で、描くのは自分です。

また、予備校の指導の方向性が志望校の求めるものとずれていると、通っても思ったほど力が伸びないことがあります。生徒どうしの競争意識が強すぎる環境で気持ちが張り詰めたり、予備校のペースで毎日描き続けるうちに一枚一枚への気持ちが薄れ、なんとなく描き続けるだけになってしまったりする人もいます。

予備校に通うことと合格することは、同じではありません。

お金をかけずに学ぶ

予備校に毎日通うのが難しくても、美大を目指す方法はあります。独学の一番の弱点は、自分の作品を客観的に見てもらう機会と、ほかの受験生と比べる機会が少ないことです。以下の方法を組み合わせて、その弱点を補いましょう。

学校の美術の先生と美術部

高校生なら、まず学校の美術の先生に相談してみてください。美大出身の先生も多く、デッサンを見てもらえたり、美術室のモチーフや道具を使わせてもらえたりすることがあります。費用をかけずに講評を受けられる、一番身近な機会です。

講習会だけ受ける

多くの予備校は、通年のコースとは別に、夏期講習や冬期講習、直前講習などの短期講習を開いています。普段は独学で描き、講習会の期間だけ予備校に通って、講評や入試の情報を集中して得るという方法があります。地方から夏休みだけ東京や大都市の予備校の講習に参加する人もいます。

地域の画塾・絵画教室

大手の美術予備校がない地域でも、美大受験に対応している小さな画塾や絵画教室があることがあります。大手より費用を抑えられることも多いので、近くにないか調べてみてください。

オンラインで学ぶ

最近は、オンラインでデッサンの添削を受けられる講座や、動画で描き方を学べる講座も増えています。予備校のない地域に住んでいる人にとっては、通学に比べて費用も時間も抑えられる選択肢になります。ただし、講座の質はさまざまなので、講師の経歴や受講生の合格実績を確認してから申し込みましょう。

合格作品と美術館を教材にする

合格作品は、予備校の公式サイトやSNSで無料で見ることができます。合格作品から描き方の型をつくるで紹介した方法は、予備校に通っていなくても実践できます。

本物の作品を見ることも、何よりの勉強になります。国立美術館の所蔵作品展は、高校生以下と18歳未満は無料で観覧できます。公立の美術館にも同じような制度を設けているところがあるので、近くの美術館を調べてみてください。図書館で画集を借りるのも、お金をかけずにできる方法です。

身の回りのものを描く

石膏像がなくても、デッサンの練習はできます。家にある静物を組んで描く、鏡を使って自画像を描く、家族にモデルになってもらう。制限時間を決めて描けば、それだけで本番に近い練習になります。

組み合わせるという選択

予備校か独学か、どちらか一つに決める必要はありません。

たとえば、高校1・2年生のうちは学校の美術部と独学で基礎を固め、受験学年になってから夜間部に通う。普段は独学で、講習会の時期だけ予備校に行く。浪人中は予備校の昼間部に通う代わりに、アルバイトをしながら講習会とオンライン添削を組み合わせる。そうした学び方を選んでいる人もいます。

また、予備校の中には成績優秀者の授業料を減免する特待生制度や、奨学金制度を設けているところもあります。費用が理由で予備校をあきらめる前に、こうした制度がないか確認してみてください。

自分で決める

どの学び方を選ぶにしても、一番大切なのは、自分の意思で決めることです。

周りがみんな通っているから予備校に行く、というのではなく、自分に何が足りなくて、それをどこで補うのかを考えて選んでください。そして、通い始めた予備校が自分にとってマイナスだと感じたら、休んだり、やめたり、別の学び方に切り替えたりしてもかまいません。

実際に、予備校に通っていたものの苦しくなってやめ、自分のペースで描くようにしてから合格したという人もいます。その決断ができることも、受験を乗り切るための大事な力です。

受験には努力が欠かせませんが、同じくらい大切なのは、描くことへの気持ちを保ち続けることです。