「学科は関係ない」は本当か

美大受験の世界では、昔から「実技さえできれば、学科はほとんど関係ない」と言われてきました。

このサイトの旧版にも、そう読める内容を書いていました。けれど、今の美大入試でこの言葉をそのまま信じるのは危険です。学科の扱いは大学や学科、入試方式によって大きく違い、学科の点数が合否を分けることも、学科の準備不足で受験資格を失うこともあります。

このページでは、美大受験における学科試験と大学入学共通テストの位置づけと、実技と両立させるための勉強の進め方を紹介します。

大学によって扱いはまったく違う

国公立の芸術大学

東京藝術大学などの国公立の芸術大学では、一般選抜で大学入学共通テストを受けることが求められるのが一般的です。

東京藝大の美術学部では、学部・学科が指定する教科・科目をすべて受験していないと、無資格(失格)として扱われます。共通テストの点数の比重が小さい学科であっても、受け忘れや科目の選び間違いは、それだけで不合格を意味します。必要な教科は学科によって違い、たとえばデザイン科では国語・外国語・情報の3教科が必修で、さらにもう1教科を選択して受験する必要があります。

私立美大

私立美大の一般選抜では、大学独自の国語や英語の学科試験を実技と組み合わせて判定することが多く、学科の点数も合計点に含まれます。実技の力が近い受験生どうしでは、学科の点数の差がそのまま合否の差になることもあります。

また、共通テストの成績を利用する方式を設けている大学もあります。学科が得意な人にとっては、実技の負担を抑えて併願できる選択肢になります。

いずれにしても、志望校が決まったら、必要な教科・科目と、実技との配点の比率を募集要項で必ず確認してください。入試方式の全体像は美大・芸大の入試の仕組みで紹介しています。

共通テストの出願を忘れない

共通テストは、受験する年の前の年の秋に出願します。たとえば2027年度(令和9年度)の共通テストは、出願期間が2026年9月15日から10月2日まで、本試験が2027年1月16日・17日に予定されています。

実技の練習に追われていると、秋の出願期間をうっかり見落としがちです。現在の出願はインターネットで行う方式になっているので、手順も含めて早めに確認しておきましょう。

出願のときには、受験する教科・科目を選びます。志望校が指定する科目と違う組み合わせで出願してしまうと、取り返しがつきません。複数の大学を受ける場合は、すべての志望校の条件を満たす組み合わせになっているかを確かめてください。

実技と両立させる勉強の進め方

必要な科目だけに絞る

美大受験生は、実技の練習に多くの時間を使います。学科の勉強は、すべての科目を広くやるのではなく、志望校で必要な科目だけに絞りましょう。美大で課されることが多いのは国語と英語です。まずはこの2科目を中心に考えてください。

毎日少しずつ

学科の勉強は、直前に詰め込むより、毎日少しずつ続ける方がずっと楽です。英単語や古文単語のような暗記ものは、通学の電車の中や寝る前の時間でも進められます。実技で疲れた日でも、30分だけでも机に向かう習慣をつけておくと、秋以降に大きな差になります。

過去問で形式に慣れる

共通テストの過去問題は、大学入試センターのウェブサイトで無料で公開されています。旧版では有料のサービスを紹介していましたが、まずはこの無料の過去問を解いて、問題の形式と時間の感覚に慣れるところから始めましょう。私立美大の学科試験も、大学によっては過去の問題を公開しています。

学科を独学で進めるのが難しい場合は、学校の先生に相談したり、安価なオンライン学習サービスを利用したりする方法もあります。予備校や学び方全般については予備校か独学か、学び方と費用を参考にしてください。

コラム:「芸大さえ受かれば」と信じていたころ

最後に、旧版で書いた私自身の話を、少し書き直して残しておきます。

学校の成績がふるわなかった私に、当時の予備校は東京藝大の受験を勧めました。絵の試験なら勝負できるという自信もありましたし、周りの先輩たちも「芸大に受かれば人生が変わる」と言っていました。「芸大さえ受かれば、すべてがよくなる」。そう信じて、何度も試験を受けました。

けれど時がたって分かったのは、どの大学を出たかで人生が明るくなるわけではない、ということでした。大学は、自分がやりたいことを学び、それで生きていく力をつけるための場所であって、入った瞬間にすべてが解決する場所ではありません。

だからこそ、学科の勉強を捨てて一つの大学だけに賭けるような受験は、おすすめしません。学科の力があれば、受けられる大学や入試方式の選択肢が広がります。万が一、第一志望に届かなかったときにも、別の道を選ぶことができます。学科の勉強は、自分の進路の幅を守るための準備でもあるのです。

大学と進路の考え方については、学歴と進路をどう考えるかでも取り上げていく予定です。