倍率には二種類ある
「倍率○倍」という数字を見るときは、それがどちらの倍率なのかをまず確かめてください。
ひとつは志願倍率です。志願者数を募集人員で割ったもので、出願が締め切られた直後に発表されることが多い数字です。
もうひとつは実質倍率です。実際に試験を受けた人の数を、合格者数で割ったものです。入試が終わってから発表されます。
私立大学では、ほかの大学に進む人が出ることを見込んで、募集人員より多くの合格者を出すのが普通です。そのため、実質倍率は志願倍率よりかなり低くなることがあります。
たとえば多摩美術大学の2026年度一般選抜(一般方式)の絵画学科油画専攻は、募集人員70人に対して志願者594人で、志願倍率は約8.5倍でした。一方、受験者576人に対して合格者は118人で、実質倍率は約4.9倍です。同じ入試でも、どちらの数字を見るかで印象はずいぶん変わります。

東京藝術大学の倍率
東京藝術大学が発表した2026年度(令和8年度)の美術学部一般選抜の志願者状況は、次のとおりです(志願者数 ÷ 募集人員)。
絵画科 油画専攻:募集人員55人、志願者1,242人、約22.6倍
絵画科 日本画専攻:募集人員25人、志願者442人、約17.7倍
デザイン科:募集人員45人、志願者648人、約14.4倍
彫刻科:募集人員20人、志願者245人、約12.3倍
工芸科:募集人員30人、志願者247人、約8.2倍
先端芸術表現科:募集人員24人、志願者138人、約5.8倍
芸術学科:募集人員20人、志願者113人、約5.7倍
建築科:募集人員15人、志願者63人、約4.2倍
美術学部 全体:募集人員234人、志願者3,138人、約13.4倍
このサイトの旧版を書いた2013年ごろも、油画専攻は「受験生1,000人以上に対して合格者は55人」と書いていました。十年以上たった今も、募集人員55人に対して1,200人を超える志願者が集まっていて、油画専攻がとびぬけて狭き門であることは変わっていません。
また、東京藝大は私立美大のように募集人員を大きく上回る合格者を出す大学ではないため、実際の競争の厳しさも志願倍率に近いものと考えておいた方がよいでしょう。
なぜ東京藝大の倍率は高いのか
理由はいくつか考えられます。
まず、国立大学なので私立美大に比べて学費が抑えられることです。次に、募集人員がもともと少ないことです。油画専攻でも55人、建築科は15人しかいません。
そして、一度不合格になっても翌年また挑戦する浪人生が多いことも、倍率を押し上げています。東京藝大の美術学部は、合格者に占める浪人生の割合が高いことで知られ、何年も浪人してから入学する人も珍しくありません。私立美大に在籍しながら受け直す人もいます。
現役や1浪で合格できる人がいる一方で、長く続く受験生活をどう乗り切るかも、藝大受験の大きなテーマになっています。この点は多浪しやすい人の傾向と抜け出し方で取り上げます。
私立美大の倍率は学科と方式で大きく違う
私立美大の倍率は、東京藝大ほど極端ではないことが多いものの、学科や入試方式によって大きな差があります。
先ほどの多摩美術大学の2026年度一般選抜(一般方式)で比べると、グラフィックデザイン学科は受験者914人に対して合格者146人で、実質倍率は約6.3倍でした。一方、建築・環境デザイン学科は受験者83人に対して合格者59人で、約1.4倍です。同じ大学の中でも、これだけの開きがあります。
さらに、同じ学科でも、一般方式、共通テスト利用方式、総合型選抜などの方式ごとに倍率は違います。自分の得意なことが生かせる方式を選ぶことで、合格の可能性は変わってきます。入試方式については美大・芸大の入試の仕組みを参考にしてください。
倍率とどう付き合うか
倍率は、志望校を選ぶときの目安としては役に立ちます。けれど、倍率そのものに振り回される必要はありません。
倍率が20倍でも、受験生の全員が合格レベルの作品を描けるわけではありません。本当に競っている相手は、そのうちの一部です。東京藝大のように第1次試験と第2次試験がある大学なら、まずは第1次試験を通過できる力をつけることが、現実的な最初の目標になります。
また、倍率は年によって上下します。ある年に倍率が下がった学科に、翌年は志願者が集まることもあります。前の年の数字だけを見て志望校を変えるのではなく、自分が何を学びたいかを軸に選ぶことをおすすめします。
倍率の数字は毎年変わります。最新の数字は、東京藝術大学入試情報サイトの「入試結果」や、各大学が公開している入試結果資料で確認してください。