美大受験は長期戦

美大受験は、短距離走ではなく長距離走です。

実技の力は一朝一夕には伸びません。何か月も、場合によっては何年も、ほぼ毎日描き続けることになります。その間には、うまく描けない時期も、周りと比べて焦る時期も、描くこと自体が嫌になる時期もやってきます。

このページでは、そうした長い受験期間を、気持ちを切らさずに走り切るための考え方を紹介します。

合格を前提に考える

旧版のこのページで一番伝えたかったのは、「合格することを前提に行動する」という考え方でした。

「うまくいきそうだったら本気を出す」「受かったらいいな」という気持ちで取り組むのと、「合格する」と決めて、そのために今日何をするかを考えて取り組むのとでは、一日一日の練習の質が変わってきます。準備の始め方で書いたように、できない理由を探すのではなく、どうすればできるかを考える習慣を持ってください。

そのための方法の一つとして、旧版では、自分が合格したときの様子を頭の中で具体的に思い浮かべることをすすめていました。合格発表を見る自分、大学のアトリエで描いている自分。それを繰り返し思い描くことで、目標が遠い理想ではなく、自分がたどり着く場所として感じられるようになります。気持ちが折れそうなときに、何のために描いているのかを思い出すきっかけにもなります。

ただし、前向きな気持ちだけで合格できるわけではありません。気持ちはあくまで、正しい方向の努力を続けるための支えです。

スランプとの付き合い方

受験期間中には、前より下手になったように感じる時期が必ずといっていいほど訪れます。

実は、目が肥えて自分の作品の問題に気づけるようになると、手の技術が追いつくまでの間、自分の絵が下手に見えることがあります。スランプは、力が伸びる直前の段階であることも少なくありません。

スランプのときは、いつもの課題から少し離れて、短い時間のクロッキーやスケッチをたくさん描く、昔の自分の作品を見返して成長を確かめる、好きな作家の画集を眺めるなど、気分を変えてみましょう。数日描かずに休むのも、立派な対処法です。

比べる相手を間違えない

予備校の講評やSNSで、ほかの受験生の上手な作品を毎日のように目にすると、焦りや劣等感が生まれるのは自然なことです。

けれど、比べるべき相手は、昨日の自分です。一か月前の自分の作品と今日の作品を並べてみてください。多くの場合、確かに進んでいることが分かるはずです。

ほかの人の作品は、落ち込むためではなく、学ぶために見ましょう。SNSを見ると気持ちが乱れるなら、受験期間中は見る時間を決めたり、しばらく離れたりするのも一つの方法です。

競争意識が強くなりすぎると、かえって自由に描けなくなることもあります。この点は多浪しやすい人の傾向と抜け出し方でくわしく取り上げます。

生活のリズムを守る

気持ちの問題は、体の問題とつながっています。睡眠が足りない、食事が偏っている、一日中座りっぱなし。そんな日が続くと、気持ちも作品も不安定になりがちです。

描く時間を確保することは大切ですが、それと同じくらい、決まった時間に寝て起きること、きちんと食べること、少しでも体を動かすことを大切にしてください。受験の終盤ほど、生活のリズムが試験当日のコンディションを左右します。

眠れない、食べられない、何をしても気持ちが晴れないといった状態が長く続くときは、一人で抱え込まずに、家族や学校の先生、スクールカウンセラーなどに相談してください。

試験直前と当日

旧版では、試験の直前まで順調だったのに、本番で急に弱気になってしまう人のことを書きました。一年の準備の成果を出し切れるかどうかは、最後の数日の気持ちの持ち方にもかかっています。

直前の時期には、新しいことを始めるより、これまでやってきたことを確かめる練習に切り替えましょう。自分の型で描き切れた作品を見返して、「これだけ描いてきた」と確認するのも効果があります。

試験当日は、会場に着く時間、道具の並べ方、描き始める前の手順など、いつもの流れをそのまま再現することを意識してください。決まった手順は、緊張しているときほど助けになります。

第1次試験と第2次試験がある大学では、第1次試験に合格したあとに急に「受かるかもしれない」と意識しすぎて、いつもの描き方ができなくなる人もいます。最後の試験が終わるまで、目の前の一枚に集中しましょう。

結果が出なかったときに

どれだけ準備しても、結果が思いどおりにならないことはあります。美大受験では、浪人してもう一度挑戦する人も少なくありません。

不合格は、あなたの価値が否定されたということではありません。その年の、その試験の、その作品の結果です。少し休んだら、何が足りなかったのか、次に何を変えるのかを落ち着いて振り返ってみてください。

そして、もう一度同じ大学を目指すのか、ほかの大学や別の進路を考えるのかも、自分で決めてかまいません。どの道を選んでも、描いてきた時間は無駄にはなりません。