描く力とは別の力がいる
絵の仕事を続けていくには、描く力とは別に、仕事として引き受けるための知識が必要になります。
いくら描けても、条件を決めずに引き受けて何度も描き直しになったり、報酬が支払われなかったり、描いた絵を思わぬ形で使われたりすれば、活動そのものが続かなくなります。学校では教わらないまま、最初の依頼を受けることになる人も少なくありません。
なお、ここに書くのは一般的な考え方の説明です。実際の契約やトラブルについては、弁護士などの専門家や、下に挙げる相談窓口に相談してください。

仕事はどこから来るか
紹介:一緒に仕事をした人や、学校の先輩から声がかかる形です。この業界でいちばん多い経路で、理由は進路と経済環境のページのコラムに書きました。
作品を公開して声がかかる:SNSやポートフォリオサイトに作品を出し続けていると、それを見た人から依頼が来ることがあります。
エージェントや制作会社:イラストレーターを取りまとめる会社を通じて仕事を受ける形です。条件の交渉を任せられる一方、手数料がかかります。
クラウドソーシング:募集に応募する形です。始めやすい一方で単価は低めで、近年は生成AIの影響で案件が減る傾向も報じられています。
コンペ・公募:受賞が実績になり、そこから依頼につながることもあります。
引き受ける前に確認すること
依頼が来たら、描き始める前に次のことを確認します。あいまいなまま進めることが、トラブルの最大の原因です。
用途と媒体:何に使う絵なのか。webだけか、印刷物にも使うのか、商品にするのか。
使える範囲と期間:どの媒体で、どのくらいの期間、どの地域で使うのか。範囲が広いほど報酬も上がるのが普通です。
点数と仕様:何点描くのか。サイズ、解像度、データ形式、レイヤーを分けて納品するのか。
ラフと修正:ラフは何案出すのか。修正は何回までか。回数を決めておかないと、際限なく直しが続きます。
納期:ラフ、修正、最終納品それぞれの日付。
報酬と支払いの時期:金額と、いつ支払われるか。
クレジット:名前を出してもらえるか、実績として公開してよいか。公開できないと、ポートフォリオに載せられません。
キャンセルのときの扱い:途中で中止になった場合、どこまで支払われるか。
書面に残す
口約束やチャットだけで進めず、条件は必ず文字で残しましょう。発注書やメールでも、内容が明確なら記録になります。
2024年11月1日に、通称フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が施行されました。この法律では、フリーランスに業務を委託する事業者に対して、業務の内容や報酬額などの取引条件を書面または電子メールなどで明示することが義務づけられています。また、報酬は納品物を受け取った日から数えて60日以内のできるだけ早い日に支払うこととされています。
つまり、条件を文字で示してもらうことは、受ける側のわがままではなく、発注する側の義務です。条件が示されないまま進みそうなときは、確認をお願いして問題ありません。
著作権の基本
描いた時点で権利は自分にある
絵を描くと、その時点で描いた人に著作権が生まれます。登録などの手続きは必要ありません。仕事として納品しても、それだけで著作権が相手に移るわけではありません。
「使わせる」のか「渡す」のか
契約には大きく二つの形があります。一つは、著作権は自分に残したまま、相手に使うことを許す形(利用許諾)。もう一つは、著作権そのものを相手に渡す形(譲渡)です。
譲渡してしまうと、以後その絵を自分で使うことにも制限がかかることがあります。実績として公開できるか、同じ絵柄の作品を別の仕事で使えるかにも関わるので、譲渡が条件の場合は、報酬の額とあわせてよく考えてください。
著作者人格権
名前を表示してもらう権利や、作品を勝手に改変されない権利は著作者人格権と呼ばれ、これは他人に譲り渡すことができません。ただし契約では「行使しない」と定められることが多く、その場合、改変や無表記に異議を唱えにくくなります。
二次利用
最初に聞いていた用途と違う使われ方をするときは、あらためて許諾と追加の報酬を取り決めるのが原則です。「ポスターのために描いた絵が、いつの間にかグッズになっていた」という事態を防ぐために、最初の契約で範囲をはっきりさせておきます。
生成AIに関する取り決め
生成AIが広く使われるようになって、契約で確認すべき点が増えました。
納品した絵をAIの学習に使ってよいか:学習利用を認めるかどうかを定める契約が増えています。認めない場合は、その旨を契約に書いてもらいましょう。
AIを使った制作が許されるか:発注側が、AIで生成した素材を含む納品を禁止していることがあります。逆に、AIの利用を前提とした案件もあります。どちらなのかを最初に確認してください。
権利の所在:AIの出力をそのまま使った場合、著作権の扱いが不明確になることがあります。権利関係をはっきりさせたい発注者ほど、人が描いたことを重視する傾向があります。
この分野は法律も慣行も動いている最中です。最新の状況は、文化庁の資料や業界団体の発表で確認してください。
お金まわりの実務
仕事を受けると、見積書や請求書を出すことになります。書式は決まった形があるので、はじめは既成のテンプレートを使えば十分です。
個人がデザインやイラストの報酬を法人から受け取る場合、支払いの段階で所得税が差し引かれる(源泉徴収される)ことがあります。手取りが請求額より少ないときは、この差し引きが理由であることが多いので、支払調書や明細を確認しましょう。
また、収入があれば確定申告が必要です。画材費、機材、通信費、交通費など、制作にかかった費用は経費として計上できます。請求書や領収書は必ず保管してください。消費税のインボイス制度への対応も、取引先によっては求められます。
困ったときの相談先
報酬が支払われない、一方的に条件を変えられた、契約書の内容が分からない。そうしたときは、一人で抱えないでください。
フリーランスの取引上のトラブルについては、国が設けている「フリーランス・トラブル110番」という無料の相談窓口があり、弁護士に相談できます。業界団体や、所属するエージェントに相談する方法もあります。
作家としての活動全般のお金の話は作家として生きるということ、仕事の環境の変化についてはイラストレーターという進路も参考にしてください。