作家になる人は意外と多い
美大を出て、作品をつくり続ける人は意外と多くいます。ただし、作品を売った収入だけで生活している人は、その中のごく一部です。
前のページで見たように、美大の卒業生のうち、企業に就職する人は一部で、残りは進学、非常勤や自営、その他の進路に分かれます。美大卒業後の進路と、時代ごとの経済環境のデータのとおりです。
その「作家として活動している人」の中身は、実にさまざまです。専業で制作をしている人、予備校や絵画教室で教えながら制作する人、別の仕事をしながら発表を続ける人。どれも作家であることに変わりはありません。このページでは、その活動を支えるお金の仕組みを、なるべく具体的に見ていきます。

作品を売るときのお金の流れ
販売手数料は3割から5割
作品を画廊や百貨店の美術画廊で販売してもらう場合、多くは委託販売という形になります。作品を預けて、売れたときに販売手数料が引かれ、残りが作家の取り分になります。
この手数料は、おおむね売値の30%から50%です。企画画廊では50%、つまり作家と画廊で半分ずつという設定が一般的とされています。
つまり、10万円で売れた作品でも、手元に入るのは5万円ということです。そこから画材代、額装代、アトリエの家賃、搬送費を引くと、残る額はさらに小さくなります。
なぜ半分も引かれるのか
初めて聞くと「取りすぎではないか」と感じますが、画廊の側も費用を負担しています。展示スペースの維持費、光熱費、案内状や広報の費用、接客する人の人件費。画廊によっては作品の輸送費や、作家の滞在費まで負担します。そして、売れなければ画廊の側も赤字になります。
百貨店の美術画廊であれば、外商を通じて顧客に紹介してもらえることもあります。画廊には顧客の名簿があり、作品を買う人とつないでくれます。手数料は、その営業と集客に対する対価だと考えられています。
とはいえ、実際には集客を作家自身のSNSや人脈に頼っている展示も少なくありません。手数料に見合う働きをしてくれる相手かどうかは、契約する前によく見ておくべきところです。
価格は手取りから逆算する
こうした仕組みなので、作品の価格は「いくらで売りたいか」ではなく、「手数料を引いたあとに何が残るか」から考える必要があります。材料費、額装費、制作にかけた時間、次の制作のための資金。それらを賄える価格になっているかを確認してください。
また、同じ作品をネットショップや直接の取引で安く売ってしまうと、画廊との信頼関係を損ねます。販路ごとの価格の整合も、早いうちから意識しておきましょう。
発表するためにかかるお金
作品を発表する場には、費用がかかるものと、かからないものがあります。
企画画廊:画廊が「この作家の作品を売りたい」と考えて企画する展示です。会場費はかからず、売れたときに手数料を払います。ただし、声がかかるまでが簡単ではありません。
貸画廊(レンタルギャラリー):会場を借りて自分で展示をします。会期ごとに会場使用料がかかり、さらに売れたときの販売手数料がかかる場合もあります。若い作家が発表の実績をつくるためによく使う方法です。
公募展:出品料を払って応募し、入選すれば展示されます。受賞すれば賞金や、その後の個展につながることもあります。
アートフェア、グループ展、オンライン:近年は、作家が自分でSNSやオンラインのプラットフォームを通じて作品を売ることも増えました。手数料は画廊より低いことが多い一方、集客も価格の説明も自分で行うことになります。
どの方法にも、費用と手間と得られるものの組み合わせがあります。発表を重ねるうちに、自分の作品に合う場が見えてきます。
収入を組み立てる
作品の販売だけで生活を成り立たせている人は、けっして多くありません。多くの作家は、いくつかの収入を組み合わせています。
教える仕事:美術予備校の講師、絵画教室、学校の非常勤講師。制作の時間を確保しやすく、作家と並行しやすい仕事として、昔から選ばれてきました。
受注の仕事:壁画や装飾、イラストの依頼、企業とのコラボレーション。自分の作風を生かしながら報酬を得られます。
制作以外の仕事:美術の関連職に限らず、時間の融通が利く仕事を選んで、収入の土台にしている人もいます。
助成金・賞:文化庁や自治体、民間の財団が、制作や展示、留学に対する助成を行っています。公募情報をこまめに見ておきましょう。
収入の柱を複数持つことは、作家として長く続けるための現実的な備えです。時代によって、どの柱が太くなるかは変わります。
続けるための実務
作家として活動を始めると、制作以外にやることが増えます。
作品の記録(撮影と管理)、価格表と在庫の管理、展示の企画と搬入出、案内状やSNSでの告知、そして税金の手続きです。収入が発生すれば確定申告が必要になりますし、経費の記録も欠かせません。画材や額装、交通費など、制作にかかった費用は経費になります。
契約についても、口約束で進めずに、手数料の率、支払いの時期、作品が破損や紛失したときの扱い、保険の負担を、書面で確認しておきましょう。契約や権利の基本についてはイラストの仕事の受け方と契約・権利でも扱います。
受験生と保護者の方へ
ここまで読んで、厳しい話だと感じたかもしれません。けれど、美大に進むことが無謀だという話ではありません。
大事なのは、作家として生きるというのが「絵が売れるかどうか」だけの問題ではなく、価格の決め方、発表の場の選び方、収入の組み立て方、契約や税金の扱いまで含めた、長く続けるための設計の問題だということです。そして、その設計は学ぶことができます。
在学中から、作品を記録し、発表の場に出し、人とのつながりを大切にしてきた人ほど、卒業後の動き出しが早いものです。ほかの進路については美大卒の主な職種やイラストレーターという進路も見てみてください。