人体は大きな関門

美大受験で多くの人がつまずくのが、人を描く課題です。

東京藝大の油画専攻の第2次試験でモデルを描く課題が出た年があるように、人物は入試の課題としてよく出ます。彫刻科では人体の塑造が課されますし、デザイン科でも手や人物を描かせる課題が出ることがあります。

ところが、石膏像や静物と違って、人体はいつでも目の前に置いておけるものではありません。そこで、練習のための資料が必要になります。

まずは実物を描く

どんな資料よりも勉強になるのは、生身の人間を描くことです。

クロッキー会:美術団体や画材店、貸しアトリエなどが、モデルを立ててクロッキー(短時間で描く練習)の会を開いていることがあります。短いポーズを数多く描くことで、全体の比率と動きをつかむ力がつきます。

家族や友人に頼む:長時間のポーズは大変なので、短い時間で何枚も描かせてもらいましょう。

鏡で自画像:いつでもできて、モデル代もかかりません。顔だけでなく、手や腕、座った姿勢も描けます。

自分の手や足:手は、人体の中でもとくに難しく、そして毎日観察できる部位です。

街で描く:公園や駅で、動いている人を短時間でとらえる練習も役に立ちます。ただし、他人をじっと見て描くことになるので、人の少ない場所を選び、相手に不快な思いをさせないよう配慮してください。

立体の資料を使う

実物を描く機会がないときは、立体の資料が助けになります。

デッサン人形:木製の関節人形です。全体のプロポーションと、ポーズの骨組みを確認するのに向いています。

関節が動くフィギュア:デッサン人形より関節が細かく動き、自然なポーズを取らせやすいものがあります。手のパーツが交換できるものは、手の資料としても使えます。

人体模型・筋肉の模型:筋肉や骨格の形を立体で確認できます。

3Dモデルのアプリ:画面の中でポーズを自由に変えられ、視点や光の向きも動かせます。見上げた構図や見下ろした構図の資料をつくれるのが強みです。

立体の資料の一番の利点は、光を自分で当てられることです。デスクライトを一方向から当てれば、その明暗がそのまま絵の手がかりになります。写真ではわからない、光の回り込みや影の落ち方を確かめられます。

資料の限界を知っておく

ただし、資料はあくまで補助です。そのまま写すと、かえって不自然な絵になります。

デッサン人形やフィギュアは、頭身や関節の位置が実際の人間と違うことがあります。関節の可動域も人間とは異なり、人体では無理なポーズが取れてしまいます。そして、皮膚のたるみ、筋肉の張り、体重のかかり方といった、生身の人間にしかない情報は再現されません。

資料を使うときは、「構図とポーズの検討」「明暗の確認」までにとどめ、形の細部は実物の観察や美術解剖学の知識で補うのがよいでしょう。

写真と本を使う

自分で撮った写真:描きたいポーズを自分や家族に取ってもらい、撮っておけば、自由に使える資料になります。

ポーズ集:デッサン用のポーズ写真をまとめた本や素材集があります。利用の範囲は、それぞれの本や素材集の規定に従ってください。

他人が撮った写真をそのまま模写した絵を、公開したり出品したりするのは避けましょう。

写真にも著作権があります。作品として発表する絵は、自分で撮った写真か、利用が認められた素材をもとにするのが安全です。権利の考え方はイラストの仕事の受け方と契約・権利でも扱っています。

美術解剖学の本:骨格と筋肉が、体の表面にどう表れるかを解説した本です。一冊持っておくと、見ただけでは分からない形の理由が分かるようになります。資料を見ながら描くときの答え合わせにも使えます。

試験本番には資料がない

忘れてはいけないのが、試験会場に資料は持ち込めないということです。

本番で頼りになるのは、目の前のモデルを観察する力と、それまでに描いて覚えた形だけです。資料を見ながらきれいに描けるようになることが目的ではなく、資料なしで描けるようになるために資料を使う、と考えてください。

持ち込める道具は募集要項で指定されています。美大受験に必要な画材や過去の入試課題と傾向もあわせて確認しておきましょう。日々の練習の進め方は合格作品から描き方の型をつくるで紹介しています。